だってしゃあないやん。あんなん言われたら気にしてまうもんやろ。放課後に部活も行かんとしょーもないこと踊り場ん隅で言うてんねんから。
「……やっぱさ、渡瀬の奴調子乗ってるよな」
「え、分かる!去年、俺たちの場所取り上げといてさ」
ってゆーか、渡瀬先輩って軽音部に強くてニューゲームしに来てやる気ない奴を追い出したわけやん。いやそれもどうなんやろな……とは思うけども。
「つか、何様なんだろうね?俺達で楽しくやってた所に後から入ってきた人分際でさ」
部活入って真面目にやらん奴の責任なんちゃうん?
「部活入って真面目にやらん奴の責任なんちゃうん?」
「……は?誰お前」
「あ、言うてもたわ」
「え、誰々々々www俺たちの話に入ってくんじゃねーよ、きしょっ!w」
「しゃあないやん、知ってる人ん話やったから」
「え、じゃあ軽音部くん?w」
「軽音部っすけど……」
「きたーーーーーーwwwwwwww軽音部員の新入生きたきたきたきたwwwwwwwww」
「……え、えぇ?」
え、先輩やんな?首のバッヂ青いねんから僕らの1個上のはずやけど、何か話し方に品性を感じひんわ。あかん、ちょっとマズイかもしれん。
「え、軽音部くんw渡瀬慎也知ってるんだ、じゃあwww」
「知ってますよ、普通に先輩やもん」
「あいつ去年俺たちを追い出した酷い奴なんだわw酷くね?wうぜーw」
「……まぁ、先輩が人追い出すような酷い人とは思ってなかったから意外っすけども」
アホウ!どーせ楽器も触らんとスマホでモンストとかやってたんやろ、浅ッッッさい奴やわホンマ。
「でさ、軽音部くんw」
「あ、はい」
「さっきの物言い何?」
「え?」
「先輩の俺らに言うことじゃないよねw真面目にやらないやつの責任とかw」
「いや、事実ですやん普通に。どーせ」
「きたああああwwwwww反論wwwwwwwww反論えぐいてええええええwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「え?何?www何々々、先輩の俺たちに反論ですか〜?wwwww」
何か、姉貴ってマシな奴やったんやな……何か、東京に来てこんなしょーもない奴と何で小競り合いせなあかんのやろ。
「反論っていうか……真面目に部活せんと、そうして溜飲落としとるから淘汰されたんちゃうんすか?違います?」
「何wwwじゃあ俺らが間違ってんの?」
「話聞く限りやと普通にそうですけど」
「ふざけんなよ、年下のくせに」
「渡瀬慎也に何か吹き込まれたんだろ」
「吹き込まれてやんけど、噂は本当だったのは分かったというか」
実際、この時点で渡瀬先輩の口から部活建て直したって話を聞いてはいないからな。志島先輩がうっすらそういう話しとったくらいで半信半疑やったし。
「いやwあいつみたいに真面目にやってるバカが嫌いだからさwww」
「初めからそう言えばええんやないすか?その上で僕は先輩のこと否定しますけど」
「は?」
「何お前」
「いや何って」
そういう前に、片方の先輩から平手が飛んできたんで──
「何すんねんテメエッ」
反射的に顔に一発やったんやけど────
「がっ、何すん、あっ、あっあっ」
「ちょ、俺おる俺おる俺おっ、おっおあっあわっわっわっ」
これ、何が起きたと思う?これな、先輩の背中すぐ後ろが15段くらいの階段やったから、こいつら頭打ってそのまま流れるようにコケたんやで?だっさいわぁ、ホンマ。……つかちょっとまずいことになっとる。
「……あの、大丈夫っすか?」
「死ねよ……死ねよお前!マジで!」
そう言うとるこいつ、受け身が良くなかったせいで身体で腕潰して変なとこに折れとるし……。
「でも先に吹っ掛けたのは先輩ですからね」
「黙れよ、一生話しかけてくんなよ、ゴミ、クソ」
こいつ落ちたんやけど、足痛っったそうなことになってもうて…………あ、あかん。加減間違えたせいでこいつ鼻も折れとるわ。言い逃れできんやん。うわーーーー最悪!!これ僕あれやん、絶対指導になる奴やん、終わった……せっかく大人しくしとったんに。もうくだらん理由で喧嘩しいひんって。えーーー…………。……よし、腹括ったわ。先生に言いに行こ……。
***
「……そういう事だったんだ。災難だったと言えばいいのかな」
「最初から無視しろって話やもんで、これに関しては絡みに行った僕が10:0で悪いっす」
「いやー…………自分に厳しいね、相変わらず」
「確かに、部活もやってない上に陰口で盛り上がっとるのは腹立ちましたけど」
「目標に進んでる後ろから聞こえる野次なんて振り向かなきゃいいんだ。仁川くんは頭いいから、次からそうできるはずさ」
「そうすね……ご迷惑をおかけしました」
「暴力を先に振ったのが仁川くんじゃなくて安心したよ」
「それに関しては、あの、マジで、二度としません」
「信用問題に関わるから。まぁ、寮に帰ってアンガーマネジメントを整えるくらいでいいよそれは」
「はい…………」
叱られるっていうか……何や、むっちゃこっちの身になってくれとるやん。え、これ志島先輩たちが普段使うとる所でわざわざやる話なんか?……建前上は説教になるんか。……の割には部活に戻った時に渡瀬先輩ノリノリで「志島さん、準備室貸して!仁川くん帰ってきたから、説教タイムだ」とか言うてんねんから。
「……聞いてる?」
「あっ」
「何か考えてた?」
「いや、説教って言うもんやからどんなシゴキが来るんか身構えとって……」
「……あぁ、怒鳴ったりとか?ヤだよ、演奏や製作以外で疲れることはなるべくしたくない」
「あー……」
「し、そうしないと聞かないような人はそもそも部活にいらないからね。去年は分からないが、今は僕が部長だから全ての権限と責任は僕にある」
「怖〜……」
「……まあ、そこが気に入らないって感じなんだろうね。君に吹っ掛けてた僕の同級生は。」
「先輩が入る前の軽音部ってどんなんでしたか?」
「楽器もなければ努力も目標もなくて、冷笑しか無かったね」
「よくもまあ、建て直せましたね」
「練習場所を増やしたかったのは事実だけど、そもそも軽音部っていうかバンド活動って個人で始めるのは敷居が高いから……今後入ってくる新入生が、軽く楽器を触れる機会を作りたいと思っていてね」
「なるほど……」
「ほら。最近軽音部の漫画とか流行ってるだろ?ペルハムブルーのレスポールジュニアとレスポールカスタムの」
「あんまり『ぼっち・ざ・ろっく!』のことそう言いませんよ」
「ははは……まぁ、そういうことがあって、今は榎本くんも赤塚さんものびのびやれてるから僕はそれで満足だよ」
何か、部活に対する力量と行動力がとんでもないわこの人。化け物すぎる。ほんで、僕が指導食らう直前にライブ活動を行事にできないか奔走しとったらしくて、めちゃくちゃ申し訳なくなったわ……。けど、後で聞いた事なんやけど、赤塚先輩が今度学外でやるライブに僕らも出れるかもって話らしいねんて。明日からまた頑張らなあかんわ。いや〜……指導もしんどかった。何かよく分からんプリント20枚に板書せなあかんし、訳分からんカウンセラーに仏教ねじ込まれるし……もう指導喰らわんように大人しくせんとな。
私立彁楽高校二年 仁川巌