初めまして。San Han KikanZでギターをしている渡瀬慎也です。今年も色々ありました。今回は中でもその総決算と言うべきでしょうか。「San Han KikanZ Covered Material」というアルバムを配信することになったのです。
これは何かと言いますと、僕たちバンドが好きな曲やバンドのカバーを気の向くまま赴くままにカバーをしたアルバムです。我々はYouTube、テトちゃんで言うところの「手前様の真空管」というプラットフォームにて、オリジナル曲を打ってバンドのプロモーションを執り行っていましたが、世間の興味を引くには既存曲を用いたアプローチも重要だと思い、僕たちの影響元やルーツになっている曲をカバーするなどの行為を行っていました。そこには、その曲やバンド周辺のフォロワーに見つけてもらおうというちょびっとした下心があります。当然、これは円盤化やYouTube以上の配信の予定はありませんでしたが、需要調査によって「配信して欲しい」との声が挙がったので、新日本表現社の主宰に無理を言って配信に漕ぎ着けました。予告なくサブスク上から消えたら、原曲の持ち主に怒られたんだと思ってください。
このアルバムに収録されてる曲は、過去にYouTubeにアップロードした動画のリマスターと、このアルバムの「影響元やルーツを知ってもらう」という裏面的な概要に則って、各メンバーのカバーしたい曲を収録しました。また、ライブでの予定がないので、一部曲については仁川くんがツインペダルを持ち込んでいたり、バンドのセッティングやアンプを変えてみたりしています。そこの音の違いにもご注目して頂ければ幸いです。
竿隊の使用機材については、以下の通りになります。
テトちゃん(左側ギター)
・Fender Japan TL62B-75TX
・VOX AC-30
・Maxon ROD880
・Ibanez TS808
・LINE6 DL4mkⅡ
渡瀬慎也(右側ギター)
・Fender Pleyer Plus Meteora HH Fiesta Red
・Fender American Ultra II Meteora Texas Tea
・HIWATT DR103
・Fulltone OCD
・EHX BIG MUFF(ラムズヘッド仕様)
・BOSS GT-1000core
榎本康介
・Fender Made in Japan Heritage 50s Presicion Bass
・Gallien Krueger MB150S-III Head
・Orange OBC 410
・Orange OBC 115
・TECH21 SansAmp(初期型)
・EHX Bass BIG MUFF Pi
・BOSS CEB-3
その他の使用機材として、BOSSのRE-201などを使ったりしてます。収録は学校の中だったり新日本表現社スタジオだったりまちまちです。
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各収録曲の紹介です。
1.透明少女
そもそもこのバンドはテトちゃんのギターボーカルとしての加入を以て再稼動したバンドになります。僕が彼女を誘った理由は、ナンバーガールというバンドにこの曲があり、その歌詞に「赫い髪の少女は 早足の男に手を引かれ うそっぽく笑った」というものがあります。テトちゃん本人はうそっぽく笑うことが苦手な正直者ですが。しかし、あの目が覚めるほど真っ赤な髪のフォルムを見ると件の歌詞がよぎるので、いても立っても居られず僕は彼女をバンドに誘ったという訳です。ギターを教えてる時も指の使い方が向井秀徳に似ており、その時点で「この子に向井秀徳をやってもらおう」という構想がありました。Fコードが弾けなければオレ押さえとダイアトニックの妙を駆使すればいいし、難しいことは考えず、とにかく弾く右手のニュアンスを鍛えればいい。歌は元々上手いから、自信持って堂々とパフォーマンスをしていればいい。直近でのライブでは無いフェスネイキッドが記憶に新しいのですが、そこでの彼女の立ち居振る舞いは僕による計画的犯行です。バンドのリーダーは僕ですが、フロントマンは彼女です。もしも仮に、テトちゃんが唐突にギターを置いてソーラン節を始めたとしても、僕は着いていかなければいけないのです。フロントマンというのはそういうものなのです。
横道に逸れましたが、この曲は僕の趣味です。というより、ある種の伏線回収と言えるのかも。以前から構想はありましたが、様々な都合が重なり、今年の夏に公開ということになりました。最初の合わせはCHDR以前なので、MVにはCHDR各曲の伏線回収となるものがあります。そこにも注目してみてください。原曲に忠実ながら、ナンバーガールのライブでの手癖を取り入れていたりしています。過剰なまでの圧にさらわれる歌声には頭を悩まされました。ですが、僕らなりにあのバンドの独特のSAPPUH(殺風)感を表現できたと思います。
2.REMINDER
ストレイテナーが原曲ですね。初期のライブに近いテンションで演奏してます。原曲は半音下げですが、レギュラーチューニングで演奏しています。この曲は榎本くんの趣味です。サビで彼の下ハモリが聴けます。彼のベースプレイには日向秀和がエッセンスとなってる一面もあり、大振りにピックを振り抜く手癖は彼を見て研究をしたという話を何度か聞きました。僕は原曲のフレーズをしっかり押さえつつ、ある程度好き勝手にリードをやってます。フェイザーを掛けるのは僕のギター性癖です。榎本くんに関してはコーラスを持ち込んでコピー的な文脈で収録をしていました。キーが1個上がると、より曲の中の希望の部分が明るみになるので、このアレンジは気に入っています。
3.ストラトキャスターシーサイド
これは、主宰から言い渡された課題曲でした。原曲はベースがスラップをバチバチにやっており、加えてギターもドラムも全体的にレベルが高くて、難しかったです。しかし、課題はちゃんと満点で提出するのが学生の本分だと思います。原曲の雰囲気を尊重しつつ、スラップの苦手な榎本くんはピック弾きで頑張ったり、コーラスに仁川くんが入ったり、とにかく僕らの色もある程度出しながら、原曲のファンにも納得してもらえるカバーを目指しました。この曲をきっかけに、僕はマシンガンカッティングにハマりました。こういう曲って、1度覚えたらすごく楽しい。今後の制作にも影響しそうなので、あまりやり過ぎないようにはしたいんですけど、持っていて損はない武器ですね。
4.シャロン
これは僕と榎本くんの趣味です。彼の作詞の面はチバユウスケのような感性も参考にしていると言ってました。バンドとしてはかなり忠実にコピーをすることを目指しました。テトちゃんがバレエコードを弾けない都合上、イントロはカポ2で別の押さえ方をして代用してますが、そこはご容赦ください。動画はクリスマスにアップロードしましたが、これを収録した日は、11月26日。あの日から2年。僕は彼を忘れずにいたい。
5.いちご大戦争
これは主宰の友達のバンドの曲で、僕らと同じく東京を拠点に活動している「くまにっく」というバンドの曲だそうです。僕はまだ会ったことないんですけど、とても面白い方だと伺ってるのでいつか生身でお会いしたいですね。この曲だけを聴くと、コミカルな方向性のバンドという先入観に囚われるかもしれません。でも、それは全然ちがくて。主宰づてでライブの映像を見せてもらったことがありますが、この曲含めてどれもめちゃくちゃかっこいいです。僕は永遠の唄が好き。確かな実力に裏打ちされたポップネスは無条件にリスペクトします。僕もそうありたい。
原曲は同期を用いたりしていますが、カバーでは使ってません。使わないなりにフレーズを変えたりしてアレンジというか、差別化を測りました。1番Bメロのセリフパートは暇そうだった後輩にアテレコを取り入れてみたり、ドラムに「INAZAWA CHAINSAW」をサンプリングさせてみたり、原曲のパーティー感をどう表現するか考えるのがとても楽しかったです。
6.デストルドー
これも主宰の友達のバンドで、こちらは名古屋を拠点にしている「パープルスケルトンズ」というバンドだそうです。ライブ映像が送られてきて「カバーアルバムにこれを入れて!」と主宰に頼まれましたが、どの映像もギターがとにかくデカい。割れてる。どれだけ大きいんだろう。ちなみに、ベースボーカルの方とは無いフェスネイキッドの時にお会いしたことはあります。話したことはないんですけど、サイトーのギターがかっこいいなと思いました。子供みたいな感想で恐縮です……。
この曲は原曲が3ピースなのですが、なにぶん元のギターがデカすぎるので耳コピは難航を重ねました。結果として、ルート音とトップノートを探り、オレ押さえに近い場所からTABを読み取り、リードはバッキングの構成音からどうにか工夫しました。1番が終わったあと、イントロのテーマに戻る部分ですが、パワーが有り余ったのでイントロと同じくツーインでやってしまいました。1回合わせただけで仁川くんの額を汗が伝ってたのが、この曲の熱量の確かな裏付けです。けどめちゃくちゃ手数増やしてた。パースケのドラムさんって凄く大らかかつパワフルなフィルを豪快に刻むので、行間を絶え間なく繋ぐ仁川くんと違って非常に面白い。それにこの曲をテトちゃんに歌わせると、この曲の歌詞に含まれるイメージをいい意味で裏切ってくれて、また違った解釈ができると思います。
7.イレギュラーマン
これはカバーするに至った経緯がとても不思議というか……主宰が持ち込んだ企画がきっかけで、テトちゃんの本来の姿を知ったという出来事があります。ここについては恐らくこれが掲載される公式サイトの方に動画があるので確認して欲しいのですが、演劇部の生徒がテトちゃんのコスプレをして当て振りで17才を弾いています。つまりこれはどういうことかと言うと、我々の知るテトちゃんと、みなさんの知ってる重音テトという人物は全くの別物になります。そのうえで、テトちゃん本人に歌ってみたい重音テトの曲を選ばせてみたら、この曲になりました。
バンドアレンジについてですが、原曲がかなりリズムとベースがしっかりしていたので、そこからキーを割り出してかなりハードコア・パンクに近い文脈でアレンジをしました。リファレンスに9mm Parabellum Bulletの「Punishment」を用いてます。途中の「それろそれろ……逸れろ!」は榎本くんによるものです。「だーっだだーっだ~」から、スネアの左にフロアタムを置いて、野球の応援みたいな三三七拍子を刻んでみたり、イントロのベルとカップの同時打ちはホームランのメタファーだったりと、原曲にある要素を意識してます。あとギターソロは調子に乗ってスウィープしました。コピーできる方いたらすごい。
8.オリオンをなぞる
これは仁川くんの趣味……と言っていいのかな。彼って、ドラムが難しくてかっこよかったらジャンル関係なく聴くので、そういう意味では趣味なのかも。USGは部室に何枚かアルバムがあって、僕もいくつか聴いたことがあるんですけど、非常にポップネスという面でのセンスや感性に長けているバンドだと思います。加えて各個人の演奏技術が凄まじい。収録後も原曲と聴き比べて、打ちのめされました。改めていいバンドだなと感じた1曲です。
テトちゃんのギターは4カポ。左側のハモりは榎本くんによるものです。収録の際は彼は椅子に座ってましたが、ライブでこれをやったらもう完全に田淵智也になりますね。全編通して、仁川くんが楽しそうに叩いてます。彼のドラムがなるべく殺されないように、主宰にミックスをお願いしました。上手く届いてて欲しい。
9.KiLLiNG ME
これは榎本くんの趣味です。彼のシャウトに付き合ってあげてください。キーをドロップDに変調したとはいえど、元があまりにラウドなので、HIWATTイン刺しかつ、GT-1000coreのプリアンプから2種のハイゲインアンプを読み込んで2トラック録音をしています。2番のドロップ後のパートは、かなりダヴ的なアレンジをし、そこの左側だけ、テトちゃんがドロップDのアルペジオで弾いています。それ以外は僕が左右を弾いてます。アメリカンウルトラのメテオラです。ハードテイル仕様のカッコイイ奴。
SiMはレゲエパンクというジャンルの言葉通り、アルバムの各曲の節々にかなりドープで実験的なセクションがあって、そういう面におけるディレイの手合いなどは軋轢とした感じに近しい部分を感じるんですよね。榎本くんの趣味とは言っても僕は色々とくまなく聴くので、こういう激しいジャンルもまた違ったカッコ良さがあります。こういうジャンルこそ、色々と手法を凝らしてバンドの音楽性の糧にしていきたい。
10.Telecastic fake show(feat.可不ちゃん)
この曲は、袖口とスパイスが結成され始めた頃に、ボーカリストとして頭角を表した可不ちゃんに僕から持ち掛けました。実はテトちゃんがギターを弾いています。僕がTABに起こした結果、テトちゃんが押さえれないコードはなかったので。リードのフレーズについては、テンポをゆっくりに落としてから定着させつつ、プリングの感覚がカッチリと嵌るまで時間を使えば僕じゃなくてもできるので。収録の1週間前、指先を絆創膏だらけにしながら練習に励んでる様子を見て、テトちゃんはきっと仕上げて来るんだろうなと思いました。じゃないと、345さんのパートの時に手持ち無沙汰になって、立ち姿に示しがつかないので。
ドラムは仁川くんです。ちょっと本家よりもリズムが活き活きしてますが、本家の無機質さはピエール中野氏による唯一無二の長所であり替えの利かない個性ということでここは1つ。半ば無茶振り的にテトちゃんに弾かせてみましたが、一発録りで非常にキレよく演奏できていたので本当にギターが上手くなったなと思います。もうそろそろバレエコードが押さえれると思いますが、押さえれても多分オリジナル曲の制作では使わないと思います。ベースは可不ちゃん。ジャズベってやっぱいい音。結構リアの方でオルタネイトしてるかつシングルコイルPUのお陰でかなりアタックがキワキワなので、低域感を殺さないように志島さんと相談しながら音作りを心掛けました。先ほど、どれもライブでやる想定はしてないと言いましたが、これはちょっとかっこよすぎてライブでやりたい。メンバーの手持ち無沙汰が解消出来れば……。
11.アングレイデイズ
これは仁川くんの選曲です。ドラムが楽しそうという、サッパリかつ漠然とした理由で選ばれました。本当はアノニマスファンフアレの予定だったらしいんですが、彼曰く「ド頭スネア連打は2曲もいらん(デストルドーがある)」との事で、見送ったそう。原曲がかなり同期やウワモノで足し算されているので、そこの旨味をうまく掬い上げながらバンドサウンドでどうにかまとめました。この曲の前にやったカバーがダビングデッド(※YouTubeにアップされてます)だった影響で、リードがちょっとかなり機関銃たらしめている。冷凍河童の解凍サブマシンガンですね。そして、スラップバチバチをピック弾きに直してる榎本くんに底意地を感じる。ドラムの方はと言うと相変わらずやりたいアレンジを事前に考えてきたかのような滑らかさで楽しそうに叩いてました。
実は、少し前からグライダーカポを買いまして。オレ押さえを多用するテトちゃんが転調に対応できるようにという狙いがあります。この曲に関してはカポ-2と-1を行き来しているのが、左のギターで分かるかも。そしてこれは幾度かの合わせを経て、一発録りで臨んでるので(収録後に編集はしてるものの)、リアルタイムでカポを移調させてるのが分かるかも。
12.Your eyes have all the Answer
the cabsのカバーです。これは僕の趣味です。本当はもっとこのバンドらしい曲をやりたかったのですが、どうせラズロとかキェルツェとか僕たちに明日はないとかは、袖口とスパイスがライブとかでカバーすると思うんで、僕は敢えて変拍子がなく淡い懐かしさを感じる落ち着いたエモ的なこの曲をピックアップしました。原曲も、バンドができて初めて作られた曲なんだっけね。この曲では、アンプのセッティングは僕のまま、ギターだけテトちゃんのテレキャスを使ってます。テトちゃんがピンボをやってる曲はなかなか珍しいかも。今後のオリジナル曲でもライブアレンジによってはそういう機会があるかもしれません。
原曲との歌詞の違いについてですが、かなり深入りしてるファンの皆さんにはピンとくると思います。知らない方は、美しいままでいてください。
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本来であれば、2ndをこの時期に配信予定でしたが、思ったよりアイデアに難航気味で、いい知らせができず申し訳ありません。ですが、このアルバムを望んでいる方々がいるという事実を汲み取って、アルバム用に録りおろしたりする作業はとても有意義でした。実際、これを作ってる間はとても楽しかったし。さて、我々San Han KikanZは今年は大躍進の年でした。透明少女のカバーが注目されたり、無いフェスネイキッドで初めてのロックフェス出演など。我々は着実にデカくなってます。これからも聴く人の耳の奥をガンガンに揺らしながら、ロックしていきたいと思います。ガッツリと。カバードマテリアル、是非聞いてください。感想もお便りフォームなどでお待ちしております。良いお年を。
私立彁楽高校三年 渡瀬慎也