【パイロット版】カガコーHIGH SCHOOL ROCK現象【第11話】

2026年02月10日 00:00

 今日は訳あって部活を空ける。仁川くんと一緒に。それは何故かというと、僕のバイト先を紹介するからだ。学校を出て駅とは反対の方向に歩いた先にクマガイブックスという古本屋がある。僕はそこに月5~6回ペースでアルバイトに入っている。時給が1500円で、単純な陳列とオーナーとの談議に時間を割いて、およそ3時間の労働。アルバイトを探してる仁川くんには都合の良さそうな場所だと思って誘ってみた。

「おはようございます」
「おう慎ちゃん。……その子が?」
「電話で言った後輩の子です」
「おーっ、そうか。この子は何をされとるの?」
「ドラムですね。あの、後ろで色々叩いてる役。仁川くんって言います」
「あっ……はい。仁川巌っす」
「イワオくんなんだね。僕はねえ、ここでずっとヒマしてるおじさんだからね。店長でいいよ」
「この人は店長のクマガイさん。元々はCDショップとかで働いてたから音楽とかに詳しいよ」
「そうなんすね」
「まぁ、暇な時はおじさんのお話に付き合ってくれればいいんだ。おじさんずっと暇なんだからねぇ」
「……先輩、この人大丈夫なんすか」
「大丈夫だよ。別にこの人に取って食う趣味はないし」
「もしそうならおじさんは店を空けるからねぇ」
「あぁ……」

 ファーストインプレッションの手応えはほどほどな所感だ。単純に店が忙しくないというだけで暇なのだが、確かにこの文脈だと未成年相手に良くないことを考えてるようにも受け取られてしまう気がする。初日でどれだけ打ち解けられるか……。



***



「そうなんや!え、この時代で使ってないであんだけ踏めるんか……強いなぁ」
「だからエロイって今1番凄いっていうドラマーがおるんだね。エロイかそれ以外かっていう」
「すげ〜〜〜…………そう、僕あの〜バイトしとる理由ってツインペダルが欲しくて」
「へえ、踏むのに憧れているんかい?」
「や、ちゃうんすよ。実家に置いてきたんですけど、色々あって実家に戻れないんで買い戻すんです」
「そうなんだね。ドラマー誰が好きなのん?」
「ルーク・ホーランドとかいいっすね。他にもトラビス・バーカーとかチャド・スミスとか、古いのやとイアン・ペイス分かります?」
「結構向こうのプロが好きなんだね。日本だと?」
「えぇ〜、Julienとか中村一太とか……」
「Julienは日本か〜?まあGraupelだもんな。イワオくんはジャンル関係なく手数あるのとか好きなん?」
「そっすね。聴いてて派手で楽しいし、そことグルーヴを両立させてるのってムズいねんから……」
「そしたらラーネル・ルイスとかも好きじゃない?」
「あ!好きっすね」

 どうやら思ったより僕の杞憂だったらしい。店長とこれだけ話せているのだから、そのうちここに馴染んでくれるだろう。会話を小耳に挟みながら、僕はちょうど43冊目の古本の黄ばみ取りをしていた。かくいう僕も店長が過去にどんな人間だったか知らないが、プレイヤー相手にここまで話を合わせられるのだから、恐らく業界にいた側の人間なのだろう。しかし、こんなに楽しそうな仁川くんは初めて見る。ライブや練習も楽しそうにしてくれるが、やはり彼も気質がマニアであるからかこういう話ができる相手が欲しかったのだろう。

「そうそう、そしたらパッケージをするんだね。この透明のフィルムをこうして……」
「全巻まとめてやる感じっすね」
「そうそう!あとは俺が値札つけて棚にやっとくから、それで今日はおしまいね。慎ちゃんも、今日はありがと。それやったらイワオくん手伝って終わりね」
「分かりました」

 そう言われて時計を見上げると、とっくに3時間が立とうとしていた。お客さんが時々入るなどはしたが、対応に追われるほど忙しい訳ではなかった。この感じなら、仁川くんも順調に機材のための軍資金を貯められるだろう。僕は仁川くんの古本のパッケージを手伝い、その日はアルバイトを終えた。その後の帰り道のことだったかな。学校の門の前まで見送った後で仁川くんが「先輩、ありがとうございます」って言ってくれたので、僕はちゃんと先輩をやれてるんだなと感じた。特別指導とか色々あったけど、僕は仁川くんが悪い子ではないことを考え方や態度から知ってるので、どうにか彼にとってストレスにならない場所を少しでも見繕いたいと思っている。けどどうだろう。それって僕のお節介が過ぎるだけなのだろうかな。加減には気をつけていきたいね。

私立彁楽高校二年 渡瀬慎也

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