相変わらず、軽音部の調子はまずまずと言ったところ。大きく動いたことといえば、夏休みに試験的に定例ライブを部室で行うことにしたくらい。そういえば、演劇部のためにサウンド・トラックを作った件なんだけど、今日はその演劇を関係者枠で見ることになった。内容は、シューゲイザーを演奏する女の子に惚れる情けない男のラブロマンスって感じ。多感な子なら感化されるかもしれない。演奏シーンは後ろでCDで流して、当て振りだった。実際に弾けてたら渡瀬の奴が終演後に誘ってただろうが、ありえない位置でギターソロを弾いてるからすぐに見抜くだろう。……ほら、あの目。体育館の規模じゃ、マイク立てなくてもドラムの音とか聴こえるけど、アンプやシールドが揃っててシューゲに必須なボードとかがなかったり、ドラムにマイクが立ってなかったりするのって当て振りって分かるもんな。
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「劇伴、かなり良かったよ」
「当て振りについてはどうなんだよ」
「僕らが口にしたところで野暮だから気にしないかな」
「……そう」
「この劇の中心になるのは男女のすれ違いだから、そこを観たい人は演奏の様子など気にしないだろうさ」
「……何か、らしくないな」
「これはあくまで僕がメガホンを取らなかった場合の話だからね」
「だろうと思った」
相変わらず、意欲がある奴。自分ならもっと上手くやれると思ってやがる。けど、こいつの恐ろしいのが本当にそうすることができるってところ。実際、こいつは軽音部の環境を貸しスタジオと同等くらいに立て直したし、そこから軽音部としての校内活動も進めていて、仁川の件のほとぼりが冷めてから定例ライブの企画を職員室に提出していた。まぁ、場所はいつもの部室なんだからそんな事しないでチラシでも配れば来るだろうに、律儀な奴。
「思うのは勝手だけどさ……あんま演劇部に言ってやんなよ、それ」
「言う相手なんて居ないよ、いつも一人で何かしてるから榎本くんか赤塚さんくらいしか話さないし」
「そういう意味じゃなくて…………もういいや」
こいつが何でもできることは認めるが、しかし言う相手がいない理由がこの会話で分からねえものかな……。いや、分かってる上でシガラミから逃れるためにわざとやってるんだろうな、こいつ。実際、こいつを頼る奴はいても、渡瀬が進んでそいつとつるむことはないから。自分から探りに行くほど興味を持てる奴がこの学校にいても少ないだなんて、すげえ贅沢なやつ。
***
観劇も終わったので、相変わらず日々の部活に勤しんでいた。バンド形態で制作するものは一旦打ち止めとなったので、定例ライブのために私は個人練をしていた。赤塚の奴がtricotのコピバンをしたいと誘ったので、私はリードを練習している。うちの部活はベースが榎本しかいないようなものだから、あいつは重労働だ。そういえば、サンハンキカンズ?は今回の定例ライブも出るらしく、相変わらずすごい音のセッションをしていた。
「調子いいな」
「分かります?ペダル買ったんすよ」
「ふーん……バイトでもやってんの?」
「渡瀬先輩が紹介してくれたんで、ぼちぼちっすね」
「なるほどねぇ……ま、1人だと何しでかすか分かんねえからなお前」
「相変わらず言うとりますけど、もうそろおもんないっすよ」
「はは、ごめんって」
仁川は自慢げに9000って書かれた2組のキックペダルを見せてきた。まあ、バンドのために機材を整えて気合を入れるのはいい事だと思う。……ペダルといえば、そういえば星野のやつもなんか持ち込んでたな。まあいいや。
前々から思っていたが、渡瀬ってコピバンとかも容認するんだな……まぁ、知ってる曲を演奏して親しみを持つのも大事とか言いそうだけど。
「……で、ウチが赤塚ちゃんギタボでtricotのコピバンで」
「tricotやるんだ、いいね。志島さん知ってる?」
「流石に知ってる」
「まぁ知ってると思った。で、僕はキカンズと……あと榎本くんがマイケミやりたいって言うからそれと……」
「へぇ〜、あいつマイケミ聴くんだ」
「聴くし、話を聞く限りパンクとかハードコアにルーツがあるらしいんだよね、彼」
何か、榎本が陰気な理由がちょっと分かった気がする。けど、あれだけベース弾ければ陰気でもいいんじゃね?あいつ。……そういう問題じゃないか。
「……そういえば、劇伴の時にやった曲を演奏するとかしないの?」
「いや、別にする予定はなくて……」
「僕、あれ結構気に入ってるからやって欲しかったんだけど」
「ええ〜……?」
「何かできない理由でもあるのかい?」
できねぇってことはないんだけど……普通に、ギターは頼めば足りるし……ただ、劇の時は伴奏を流して登場人物に歌入れしてもらったからアレだけどさ……
「……元の音源、私が歌ってんだよ…………」
「えーっ?新歓の時に時雨やったろ」
「ぐっ」
「345さん出せるんだったらあれくらい余裕じゃないのかい?」
「…………わーったよ、やるから」
ちっ……あの歌詞、自分で歌う想定をしてなかったから恥ずかしいなんて、情けなくて言えるわけねえよ……。
「4バンドで転換込み持ち時間30分で、昼にリハやって夕方に開場すればちょうどいいかなって」
「……まぁ、そうか。つーか前から思ってたけどさ、コピーもありなんだな」
「ふつうの軽音部は好きな曲を演奏したくて始めることが多いから、制限する言われはないと思うんだ。それに、知ってる曲で部活に親しみを持ってもらうっていう狙いもあるからね」
「ふぅーん……」
よっしゃ!言った!絶対言うと思った。……まあでも、この考えについては私も共感できる。オリジナルを作れる方が異常なんだよな。普通に。
「そういえば、収益の見込みってあんの?」
「ありそうならこれにチケ代とノルマを足してGO-HATTに持ち込んでも良さそうだね」
「あ〜、わたちゃんとこの?」
「わたちゃん」
「赤塚の渾名」
「僕と被らない?それ」
「おめーは渡瀬だろ」
「そうか……まあいいや。校内の行事は生徒の交流も兼ねてるから、金銭は絡めなくていいと思うよ」
「……まあ、そうだな」
「文芸部の出典会も、漫研の頒布会も入場自体は無料だろう?」
「でもさぁ、あいつらそれで残った分を購買に回せるだろ?」
ここの文化部は、時々部室や体育館で製作物の頒布を行ったりする。多分、他の高校だとそういうのってでけえ行事の中でしかやれないんだけど、ここは部活のスケジュールが全体で書かれていて、特に体育館は運動部が基本的に練習でそれを埋めてるんだけど、そうじゃない日に文化部が予定を入れたりして頒布会などを開けるようになっている。私は友達がそういう文化部や同好会の子が多いから、時々遊びに行くので知っている。……で、そこで製作物を販売することは校則で認められているので、できることなら軽音部でも近いことをやってみたかった。実際、あの劇の後でサウンドトラックを物販で販売したから。
「なるほど!……録画・録音したものを後日焼いて購買に回してみるのとか良さそうじゃないかな。もちろん、それをそのまま外部のライブに提出するデモ音源にしてもいいし」
「機材はあんの?」
「学校のもので工面出来ると思うけど、足りない分は部費から出そう」
「分かった」
「早速だけど、明日明後日にでもカメラとかのチェックとかしてみようか。都合空いてる?」
「合わせ練もしたいから、午前か午後を空けて欲しい」
「いいよ。何なら撮影のチェックもしてみようか」
「マジで?……まあいいけど」
「そこでやり方を覚えて手順を起こしたら、後の代もできるだろうからさ。僕はそこまで進めるつもり」
「すげえ行動力……」
「まぁ、僕がそうしたくなっただけだから無理に付き合わせようとはしないよ」
「まあでも、手伝えるなら手伝うよ」
「それはありがたいね」
「人使い荒かったらいちごミルク買わせるけどな」
「5つでどう?」
「前提かよ!」
何か、思ったより話がでかくなっちゃって少し日和っちまった。……相変わらず、こいつの行動力と創作意欲はとんでもない。でもそのおかげで、軽音部は前へ前へと進んでいる。これはほんとにそうで、こないだ星野とわたちゃんを見に行った吉祥寺でのライブのおかげで外でのツテも増えたし。……まぁ、劇伴用の曲をここでやることになったのは想定外だけど、それならあの劇を見に来てくれた人とか呼んでもいいわけだから、つまりこれが上手くいったらこのライブの規模をデカくすることができるかもしれない。初めて部で行うイベントだから、コケる訳には行かねえぞ。見てろ……!
私立彁楽高校二年 志島奏