【パイロット版】カガコーHIGH SCHOOL ROCK現象【第16話】

2026年06月17日 10:00

 渡瀬くんの言った通り、あれから吉祥寺のライブハウスを中心に僕たちは活動を始めている。今日は、代打で出演したライブだった。内容は定例ライブの時とあんまし変わらないものをやった。僕らの出番は、何かやる度にふー!とか拍手が起こるような場だった。これはこれで楽しかったけど、見てる側は僕たちのやってることについてちゃんと分かろうとしてる感じがなさそうな気がした。平行線な感覚がする。……って言うのを、ライブ後の打ち上げで一緒にやった演者さんに相談してみた。

「……へえ?それで悩んでんの?」
「うん…………」
「そりゃあ榎本クンよ、それをやってるからに尽きるな」
「それをやってるから……?」
「人口の少ないジャンルや音楽性は未知の領域で開拓されてねえからさ。要はおめーらのって、インプロじゃん?そこにグシャグシャの歪みとかバカ太いベースとか混ぜてグランジっぽく聴かせてるって感じの」
「……そうだね」
「そういうのって、俺はめちゃくちゃ好きなんだけど。俺が好きってことは、つまりバンドに素養があるっていう前提がねえと成立しねえことなのよ」
「バンドに素養がある前提……」

 なるほど……と、思った。今話してるこの人は八嶋くん。渡瀬くんが下見で行ったセッション会で知り合った、八百追高校の生徒。八嶋くんは、3ピースでメタルコアをやっていた。今回の企画はオーナーさんが打ち出してる学生向けの企画なんだけど、その演者の中でもやっぱり飛び抜けていた。話を聞けば、色んなライブハウスでやってるみたい。

「……つまり、僕たちのバンドは音楽やバンドが好きじゃないと分からないってこと?」
「端的に言えばそうなるな。まあ、でもお宅のギターはそれを承知でやってるみてえだし、それなら順当に数こなすしかねえわな。一般ウケって話なら演奏の内容を分かりやすくするのもいいかもしれねえ」
「分かりやすく……」
「例えば、まあ……ギソロは激情的なやり方よりも、もう少しギソロ然とした振る舞いをするとかな」
「あ〜……」

 今日の渡瀬くんは、ギターソロの時に跪きながらとにかく痙攣するようにめちゃくちゃに掻き鳴らしていた。その後に、足元にあった、おそらくディレイのツマミをぐちゃぐちゃにいじっていた。その時に、八嶋くんがツボに入ったような笑い方をしてた覚えがある。……でもこれって、逆に言えば彼ぐらいギターを触ってる人じゃないと通じないものだったのかも。

「ただ、分かりやすくと大衆(シャバ)くなっちまう。そのシャバいのがウケるのも事実だが、多分……そういうのを目指してる訳じゃねえと思うし、他にやりようはあると思うぜ」
「うん……」
「多分、そういうのって言われる側が1番分かってるかもだし。上手く折衷してけば何かあるぞ」
「……ありがとう、八嶋くん」
「5648(コロシヤ)でいいよ」

 僕はその意見を持ち帰って、次の日に渡瀬くんに話してみた。

「なるほど……大衆(マス)化にもスクープを当てる訳か」
「あ、でも、これは単に見てくれる人を増やすだけならって話で、全然現状維持でもいいならそれでもって……」
「ありがとう。……まあ、でも……今のままで行こうかな」
「今のままで行くんだ……」
「榎本くん。僕らはまだまだ回数を踏んでいない。とにかく知ってもらう段階にいるんだよ」
「確かに……」
「その間で、やり方を二転三転しては、僕らの輪郭がぼやけてしまう」
「……!」
「我々は、大衆(マス)を圧倒的な演奏で打ちのめすんだから、握手よりも刃先を差し出さなければならない」
「うん……」
「でも、5648くんの意見も一理あるよ。……実際、続けていくうちに無意識下で当初より方向が変わることがあるかもしれないし」
「無意識下……」
「そう。慣れ、ともいうかな。僕らがライブに慣れて、今よりも息が合った時とか。そうなるまでは簡単に向ける視線を変えはしないかな」
「……なるほど」
「でも、演者から意見をもらえるのは貴重なことだからね。友達ができて良かったじゃないか」
「えっ……あ、あ〜……うん……」

 僕ってそんなに、友達がいないように見えるのかな……?……実際、いないけど……。

「それより、今日も練習だ。また3日後に同じとこであるけど、今回は相手が違う」
「あ、うん」
「一般の企画に演者で出ることになった。相手はみんな年上。とうとう大人に聴いてもらう機会が我々にも回ってきたんだ。気を引き締めていくよ」
「分かった……!」

 そういうわけで、僕らは今日もライブのために練習をする。次のライブは休日のブッキングライブだ。企画もオーナーさんと違って、吉祥寺で活動してるバンドの人の企画。オーナーさんが僕たちを勧めてくれて、それで一緒にやることになったみたい。とにかく、失礼のないようにしないと……!

私立彁楽高校二年 榎本康介

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